部外者ではあるけれど個人的に思うところが大きかったので筆(キーボード)を取ることにした。
背景はこのあたりをご参照ください。なお筆者はどのキャラもVIP到達してない程度にはスマブラコミュニティには関わりは薄いことは注記しておきます*1。
chromakeybullet.hatenablog.com
ゲーミングコミュニティは"real community"ではない
スマブラコミュニティからすれば全く部外者である私がこの件で心を痛めているのは、不祥事を告発されているプレイヤーのファンであっただけでなく、これはゲーミングコミュニティ全般に関わる問題である、と思うからだ。
私は高校生のときにあるBMS作家のWebサイトの掲示板で開催されていたオフ会に何度か参加したことがあり、そこで初めてアーケードゲームの(より一般の言葉で言うならば「ゲームセンターの」)コミュニティに足を踏み入れることになったが、あるとき最寄り駅で待ち合わせをしていたところを親の知り合いに目撃され、結果としてオフ会に参加していたことが親の知るところとなり、以降これらのオフ会に参加することを禁じられ、コミュニティから去ることを求められた。大学に入ってからはクイズマジックアカデミーのコミュニティに深く関わるようになった(このあたりは過去記事に書いています)が、当時のことを非常に不当な対処をされたと思っていたため、この話は家族やその周辺の人には一切していなかった。
しかし、よく考えてみれば不当でも何でもない。ゲーミングコミュニティは、多くの人にとって、「本物の」コミュニティではないからだ。
自分がもう一つ関わっていたコミュニティにはオーケストラのコミュニティがある。高校の部活動、大学のサークル活動、また一般のアマチュア団体での活動を行ってきたが、こちらは家族もよく知るところの活動である。一般的に「本物の」コミュニティとみなされうるところの活動であり、こちらは家族に大いに支えてもらって活動を行ってきた。この違いについて、改めて言語化をしておく必要があると思う。
ゲーミングコミュニティは「実世界の利益」をもたらさない
私がやっていたようなオーケストラの活動が実世界の利益*2をもたらすかというとかなり怪しいところはあるが、「音楽を通して人生を豊かにする」ということは多くの人は実世界の利益として捉えている。これはスポーツの場合でもそうだ。健康な体を手に入れること、それを通して健全な精神を手に入れること*3は実世界の利益のある「健全な活動」とみなされている。一方で、ゲーミングコミュニティは多くの場合実世界のスキルや名声をもたらさない。スマブラほどのゲームになるとスポンサーがつくプロも存在しているため実世界の名誉や利益がゼロであるとは言わないが、「e-sportsに入れ込むくらいだったら(実世界のスキルや名声の伴う)real sportsをやれ」という意見は未だ根強い。このように、「健全な」コミュニティとみなされる背景には「生産性」が背景にある側面があり、非生産的なコミュニティに子どもを関わらせないのは確かに教育戦略上正しいといえるだろう。
しかし、スポンサーシップなどによって「生産性」の問題が解決したところで、より大きな問題のせいでゲーミングコミュニティは「本物の」コミュニティになれない。現に、スマブラをはじめとするFGC*4は規模の経済の面では十分に「リアルな」コミュニティだったのだ。子どもへの「教育的生産性」、社会的な「生産性」という観点以外にも、コミュニティが認められるためには重要な要素があるのではないか?
ゲーミングコミュニティ、もっと広義には匿名のオンラインコミュニティは、悪意に対して脆弱である
ゲーミングコミュニティが得てして匿名のコミュニティであり、悪意の行動を働く人間にとって有利な要素が強く、実際にコトが起きてしまったときに救済される手段も極めて限定的であり、安全性を欠いているために「健全でない」コミュニティとみなす、ということもあるだろう。
「リアルの」コミュニティでは「基本的には」問題行動を起こしたらコミュニティから追放されるどころか、民事・刑事上の責任が適切に発生する。それは実名あるいは該当者の生計を立てている所属が明らかになっているからである。そのため、問題行動を取るにあたって生計を奪われる可能性があるということが抑止力として働き、問題行動を起こすインセンティブが下がる。一方で匿名のコミュニティではこのような仕組みはなく、悪意の行動を働く人間はそのまま逃げ通すことができてしまう。
もちろんIRLのコミュニティでも力のある指導者のabuse行為が発生しないわけではない。「健全な」コミュニティとみなされている部活やプロスポーツの世界でも指導者のセクハラ・パワハラ事件が多く発生していることは報道の通りだし、報道されている事案は氷山の一角と見るのが正しいだろう。「名前が知れているから安全」というのはあくまで方便であるといってもよいだろう。
「なぜゲームの世界に女性プレイヤーが少ないか」、というよくある質問について
安全でないから。以上。
同じ「ゲーム」でも将棋やチェスの世界には女性がそれなりにいることと対照するとよい。
「ゲーマーのヲタクがキモいから」という側面があるのも事実だが、第一義としては安全でなく、そのために教育の一環としてゲーミングコミュニティから遠ざける教育が行われ、その説明として「ガキの遊びに本気になっているのは気持ちが悪い」「ヲタクは気持ちが悪い」がついてくるのだろうと思う。「リアルの」コミュニティと比べ、信頼の基点にできる大人がいないゲーミングコミュニティに、親が安心して娘を委ねられるだろうか?というと当然ノーだし、そのため積極的に遠ざける教育が行われるとしても不思議ではない。少なくとも私の世代*5でも「ちゃんと親が教育を行っていたら」男の子でもゲームセンターなんかに近づかないのは当然、というように育ったのだ。私の場合は運動のできないもやしっ子なので不良によるカツアゲを主な脅威として想定していたのだろうと思うが*6、女性の場合は今回のスマブラプレイヤーの不祥事からも明らかなようにカツアゲ程度では済まない*7。
コミュニティの成熟にあたって「ヲタクキモい問題」は確かに構成員が自覚的に解決していかなければいけない問題であると思うが、安全性の問題が解決しない限り、ゲーミングコミュニティは少なくとも"real sports"と同程度に認識されることはありえない。安全性を確立しない限り、我々ゲーマーは「偽物」の烙印を背負い続けるのだ。
コミュニティには信頼のできる大人が必要、信頼のできるリーダーが必要
ゲーミングコミュニティもそうだが、すべてのコミュニティには信頼のできる大人が必要で、コミュニティ内の問題のある行動に対して行動を取れる大人が必要である。
Computer Science Head-Start Guide 2018 Editionの「コミュニティに参加しよう」の項で、新たにコンピュータ科学やその周辺分野を目指す学生に対して、学校内にとどまらず技術コミュニティへの参加を推奨する内容を記述しているが、その中で、親御さんがこのようなコミュニティのイベントに対して子どもを参加させることを踏みとどまらせる可能性があり、そのため信頼のおけるイベントを見分けるようにしよう、ということを書いた。その判断基準として、イベントの主催者の実名・所属・連絡先が明らかになっていることと、運営メンバーと参加者のCode of Conduct(行動規範)が明らかになっていることがある、ということを書いた。私が学生に対して安心して勧められる技術勉強会などのコミュニティはこの基準を満たしているが、ゲーミングコミュニティはこの基準を満たしていないところが大多数である。すべてのゲーミングコミュニティを実名化しろとは言わないが、安全性を高めるためには考えておいたほうがよいだろう。企業主催の大会であれば企業が適切に窓口になってくれることが考えられるが、草の根の大会の場合はそうも行かないケースが多い。責任者の素性が明らかで、コミュニティ内の行動規範が明示・共有されており、それについての責任性が確保されていることは、社会的にまっとうとみなされているコミュニティの多くで実現されている。ゲーミングコミュニティがアンダーグラウンドな"fake community"である状態を脱するためにはこれらの要件を満たしていく必要があるだろう。
また、責任者が明らかになっているということ以外にも、責任者あるいはその周辺の大人が適切に問題解決に踏み込むことが必要である。海外スマブラプレイヤーの不祥事の告発を読む限り、コミュニティの中心世代は10代後半から20代前半であり、10代後半のプレイヤーがより年上の有名なプレイヤーに「搦め捕られる」ことが告発されている。また、大会後のパーティーでの飲酒の果てに会場のホテルの部屋に連れ込まれた、というような事案が多く見られている。このあたりは日本のゲームセンターのコミュニティとは大きく異なっているように思っていて、宿泊を伴う大会というのは限定的であり、また打ち上げでの未成年飲酒の確認は比較的厳格に行われているため、日本のゲーマーからするとかなり前提が異なるといってよいだろう。アメリカのスマブラコミュニティでは大会のために100km以上の、場合によっては州をまたぐ移動をすることは日常化しており、そのために親権者の監視の外で危険な行為が発生しがちであった、という側面があった。多くのトッププレイヤーがこれを受けて「大人としてもっと見張りを利かせるべきだった」とコメントしているのも、大人が適切に踏み込まなかったために不祥事の発生を許してしまった、という反省からだろう。
今回のケースでは、信頼できる大人とみなされていたトッププレイヤー・プロプレイヤーが告発されていることが、事態の悪質性を際立ててしまっている。信頼できる大人とみなされている人がコミュニティ内の問題行動に介入しないどころか加担してしまったことが、この事案がより大きくなる結果を招いてしまったのだろう。
結語
私はゲーミングコミュニティがfake communityであり続けることは良いと思わない。また、real communityにおいても安全性の問題からは逃れられないだろうと思う。
よって、これを受けて、私は自分の関わるコミュニティにおいて信頼できる大人であろうと努力し続けることを誓うとともに、権威や名声*8を己のささいな欲望のために使うことなくコミュニティの安全と発展のために使うことを誓う。
追伸
私はcallout culture/cancel culture自体が暴走していることは本件とは別個に問題であると思う。事実、この事案を受けて虚偽の告発を受けたMew2King氏のコメント動画は見ていてかなり心が痛む。callout culture/cancel cultureの暴走についての私の意見は、
The online #MeToo movement is about rape, sexual misconduct, and legitimate pedophilia; but this has just gone too far. Exposing people for petty cheating, or simply being a bad boyfriend/girlfriend, does NOT fall under the same umbrella. This needs to be about the real victims that are suffering, and by publicly exposing such petty personal information about someone and painting it as abuse is wrong and disgusting. - https://www.reddit.com/r/SSBM/comments/hm0vu2/i_am_westballzs_ex_gf_this_is_what_i_have_to_say/fx2ov1u/
というコメントが非常に適切に言語化してくれている。
謝辞
本記事公開に先立って、サークルCryptic Command のメンバーに下読みをお願いし、有益なコメントをいくつもいただきました。この場にて感謝を申し上げます。
*2:ニュアンスとしては「実世界の」はreal-world、IRLの訳語のつもりで、「実世界の利益がある」とは、「それ(ゲーム)が出来たら何になるのよ」ということへの有効な回答ができる、ということ
*3:「健全なる精神は健全なる身体に宿る」の語源とその意味の誤読の問題は認識はしているが一旦置いておくことにする
*4:Fighting Game Community: 格闘ゲームのコミュニティのこと
*5:80年代後半生まれ
*6:参考までに私の経験ではゲーセンでは経験したことがなく、通学路上で一度だけ経験したことがある程度である
*7:今回の事案では男性に対する性的暴行の告発もされていて、その存在が無視できないことも認識はしているが、説明の容易性のために脚注でのみ言及することにする
*8:そんなもの私にはないが!