賢竜杯XIII「令和の陣」、そして賢竜杯スタッフとしての歩みを振り返る

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タイトルの通りです。なお動画は私がオープニング作ってた場合に使ってたであろうBEMANI Sound Team "dj TAKA"さんのHEISEI(プレイはDOLCE.氏)です。

参考までに過去の振り返りは以下にあります。Xiiについてはワンデーのみだったので書いてなかった模様。

https://sylph01.hatenablog.jp/entry/20140806/1407324512 https://sylph01.hatenablog.jp/entry/20160201/1454261425 https://sylph01.hatenablog.jp/entry/20170109/1483961469

むげんどうさきさんおめでとうございます

そういえばなんでみなさんえいかむさんのことをQMA4の一番最初のカードネームで呼ぶんだろう。ともかくむげんどうさきさん優勝おめでとうございます。1988年生まれの同世代のプレイヤーであること、私がQMAを始めてかなり早い段階で会っていることから馴染み深いプレイヤーだったのですが、前回・前々回と決勝のラスト1問で優勝を逃すというところを目の当たりにして、今度こそ、特に今回を逃したら後はない、ということで特に応援していたのでした。決勝2セット目の先行からの圧倒的な防衛と逃げ切りは、過去2回の決勝を克服した跡が強く感じられる素晴らしい試合運びでした。

私にとって「賢竜マダー?」という表現は特にえいかむさんのためにあったように思います。同世代の活躍の裏で、圧倒的な全国大会の実績がありながら賢竜杯では最後まで冠に届かなかったことを思うと、今回の優勝は悲願そのものでしょう。

QMAを第一線で*1プレイすることをしなくなってから(個人的には8が最後のつもり)相当長いのですが、思えば1988年世代やその周辺世代の巻き起こすドラマが賢竜杯という場やこのコミュニティから私を離さなかったのでしょう。

ところで去年の賢竜杯が終わったあとにはこんなことを書いていました。賢竜杯自体がラストということですが、これをもって晴れて裏方業引退ですね!

技術スタッフとしての歩み

最終回ということで、賢竜杯における技術スタッフが向き合ってきた複雑性について、またその複雑性とどのように向き合ってきたか、について振り返ってみようと思います。

賢竜杯 -翔- (2009)

私の初参加。基本的にこのときはホームページの管理とQacers入力とたまに集計くらいしかしていない。

賢竜杯†-CROSS- (2010)

初参加で感じた技術面の改善点について、アプリでのスコア入力、サーバーからの演出用データの供給などを含めたワンストップソリューションを提案する。しかしホームページ用のシステムに想定外のバグが入ってたことにより早期に挫折。

演出用データの供給についてはこの回におけるトラブルにも関連するし、Xii・令和の陣における2日目のベスト16以降の進行待ち時間の説明のために必要なのでここでやってしまうことにします。賢竜杯におけるスクリーン演出をちゃんと作り込んでいる回はだいたいゼーゼマンさんがFlashムービーを作っています。このFlashムービーは抽選結果や過去の出題履歴を含んだテキストファイルをもとに実際の映像を出力するので、抽選結果や過去の出題履歴に入力ミスがあった場合には間違った結果がムービーに出力されます。そして、だいたいの場合これらのデータは映像を出す直前になってやっと上がってくるので、最終出力結果をチェックする時間はほとんどないか、これらを作ろうとすると会場を待たせることになります。それならば、Qacersからこれらのデータを供給すれば精度の高いデータが上がってくるのでは?というのがこのときの「サーバーからの演出用データの供給」という提案でした。実際は実現できなかったので、演出用マシンとは別のマシンでファイルを作成し演出用マシンにUSBなどで渡している、という形をとっています。

ここで「事前確認がしんどい/できない」問題により、正解率グラフのコピペミスが発生→準決勝の演出における表示グラフが違う→よって出題の検討に影響がある、というトラブルが発生してしまいました。正解率グラフというのは確かに出題者にとっては重要な情報ではあるのですが、この情報はQacersに設定のない値であることや事前に集計者に調べてもらう必要があること(特に当時は録画を即時確認できるような設備はなかった)から出題履歴などに比べて非常に扱いにくい情報で、トラブルを増やす可能性のある複雑性を導入しない、という観点からは避けたほうがよかったとも思えます。もっとも、ゼーゼマンさんといえば「正解率グラフの人」だったので、これを外すことを言い出すことはやりにくかったと思いますが…

賢竜杯七 (2011)

ワンデースタッフとして参加。このとき決勝の24正誤表での集計を行ったことが、賢竜杯における24正誤表の最後の用例であり、「集計人の最後の生き残り」となった。

というわけでここでは集計人文化と24正誤表について書きます。

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最近はほとんど見なくなったものですが、24正誤表とは「各プレイヤーが24問のうちどの問題を間違えたかをチェックし、各問題の正解率がいくつであったか、各問題の形式は何であったか、また各試合の最終結果を記録する表」です。

関東で24正誤表が用いられていたときに主に用いられていた正誤表のバリエーションには「T-TRIP式*2」「エルシール式*3」「qmars701s/801s*4」などがありますが、これらは共通してオリジナルのクレジットとしてDRAGON Projectとアマリンスさんの名前を挙げています。以前本人に伺ったところによるとこれの源流は賢竜杯2におけるスコア集計と観戦記事作成のために使われ始めたことだそうで、確かに私が集計人を始めたQMA5の頃に見たブログ記事*5でも「集計用紙は観戦記事作成のためにある」という記述がありました。これによって生まれた観戦記事の集大成はMagic: the Gatheringの観戦記事でも有名なyossyさん*6による賢竜杯-祭-の観戦記事でしょう。観戦記事のために正誤表が存在するので、正解率の低い問題で一発大逆転が起こったのか、あるいはタイポによって試合結果が大きくひっくり返ったのか、それを映像なしに記録するには各問題がどのように進行したか、という情報を記録する必要があり、このような形式になった、といえます。一方で集計文化の衰退には「24正誤表で集計をやるのは慣れが必要な技能でありすごく集中力を使う」「その割に大会の進行にはそこまで貢献しない(事実大会の進行のためには正誤表は不要で形式・総得点・順位だけで十分)」「(もっと後には)録画が録れてそれがすぐに確認できるようになった」という背景があり、事実賢竜杯七の時点でも24正誤表は廃止され形式・総得点・順位のみのスコアシートで十分とされていました。それでもなお決勝にわざわざ自前の集計用紙を持ち込んで記録を取ったのには、「集計人の最後の生き残り」としての意地がありました。

賢竜杯:Re (2012)

確かこれもワンデーのみ。ここでは試合画面を手元に分岐させてそれを使ってGoogle Spreadsheetに入力する、という方式が採用されていた。能動態でないのは自分が導入したのではないため。これをやった結果非常にstressfulな経験だったので次でのメインスタッフ活動につながる。

これの何が問題だったかというと、Qacersとほぼ同等の役割の機能をQacersほど役割の特化していないGoogle Spreadsheetに行うということ、入力の慣れていない人が入力をするのに加えてその入力に強くリアルタイム性が求められることが挙げられます。筐体から離れたところで入力するため、画面が先に進んでしまうと情報ロスが発生し、しかし集計のために筐体を待たせるわけにも行かない、そして集計に負荷がかかった結果ミスで怒鳴られが発生する、というのの悪循環が発生するわけです。そして、大掛かりな映像設備が必要なため、本来他のところで使うことができたハズのモニターとかケーブルとかを集計のために割かなくてはならない、その割に効果も上がりにくい、とかなり無駄の多い方式だったように思います。これだったら正直集計人集めたほうがマシで、ペーパーレスを錦の御旗に掲げた結果効果が得られなかったということのいい例であるように思います。

賢竜杯:Q (2014)

Reでの集計方式にブチギレてQtoolsを作った。スマホ/タブレットで筐体サイドのスタッフがスコアを入力できQacersを補完する役割として導入した。

この回で現在音ゲー方面でそれなりに有名になった動画制作者氏がスタッフにいたものの途中まで作った上で直前に逃亡するという事案が発生する。

賢竜杯X (2016)

確かメインスタッフ。1日目のルールの複雑性問題が火を吹き2時間半程度の遅延が発生する。手元の賢竜杯X関連フォルダにはその場で書いたスクリプトExcelの抽選ミスをカバーしていた跡が見られる。またここから動画制作もやるようになった。そのへんの経緯はすでに書いたので過去記事参照

賢竜杯彩 (2017)

こちらもメインスタッフ。前日入りからの翌日片付けまで行う実績の解除、Xの賢竜盃に向かう途中に流すしかないとネタが降ってきたxi氏のHalcyonをエンディングムービーに使うことに成功、当日は1日目・2日目ともに過去最短の押し時間で終了、ということで個人的にはやりたいことはすべてやりきった、という感覚だった。

Qtoolfはここでデビュー。Qtoolsとの差分でいうと「n抜け惜敗mの自動計算」と「自動抽選」「抽選結果のWeb発表」が導入された。自動抽選の乱数先生が大爆発。

賢竜杯Xii (2018)

ワンデーのみ。楽団の練習の後で合流とかしてるのでいた時間もかなり短かったように思う。1日目の複雑性問題がここで再燃。DSP*7がちゃんと集計されていない問題が発覚、通過者判定に大きな影響が出る。また、Sシード限定の通過条件とかの判定がうまくできていないため再抽選が発生などの問題が起きる。

QMA特有の話として、プレイヤーをどのようにデータ上で表現し識別するか、という問題がそんなに自明な問題ではありません。プレイヤーネームでの識別だけにしても、データ上の表現としては「ハイフンを長音符に正規化」「英数字を全角に正規化」という処理を行う必要がある上、0 vs O、1 vs I、濁点半濁点の位置、などプレイヤー事情に明るくないゆえの入力ミスなどもあり得ます。また、MacではWindowsとは違いShift+英数字で全角英数字がデフォルトではない、などの微妙な問題もあります。いやそんなん言い訳に過ぎないだろ、という人はまあ黙っていっぺんやってみろ。

Xの振り返り記事でも書いていますが、2日目回すだけであればQtools/Qtoolfでほぼ十分なようにそちらは作っているわけです。一方でQtools/Qtoolfでは「プレイヤーがSシードである」とか「プレイヤーに何点のDSPがある」とかそういう情報は記録されていないのでExcelで作り込む必要があるわけですが、まあ想像される通りVLOOKUP地獄になるわけですね…。そうするとコピペをすると破綻、ソートすると破綻、みたいなことが簡単に起きてしまいます。私がExcelをあまり使いたくない理由はこれで、「データソースとプレゼンテーションツールの両方を兼ねてしまう」こと(CSS登場以前のHTMLがデザインと意味の両方を持ってしまっていた、という状態に近い)、それによる副作用について得てして作る人やプレゼンターや「Excelでやればいいじゃん」と意思決定する人が自覚的でないということが個人的にExcelベースのツールを好きになれない理由です。ここでもXのときと同様手元でスクリプト書いていくつか再集計をしていた跡が残っています。

Qtools/QtoolfはもともとQacersを補完する役割のツールとして開発した側面があるように、最初からワンストップソリューションを目指して開発するつもりはありませんでした。これはQMA6のときにワンストップソリューションを作ろうとして挫折したという過去の反省からも来ていますが、はっきりいって各賢竜杯のルールに合わせてワンストップソリューションを作るのは特にシステム開発予算のついているわけではない趣味のイベントでやるには巨大すぎるプロジェクトになります。相互に補完し合うシステムと計算方法の明瞭なルール設計の2つがともすれば複雑化しすぎる1日目に対して必要なことだと考えます。

ここでもQtoolfの乱数先生が暴れてました。

賢竜杯XIII -令和の陣- (2019)

今回もワンデーのみ。感じたのはCROSSと同様演出との連携不足。演出がその場で確認できないことによるタイムロスや、配信用パソコンから音声ミキサーに行く線がないことによって、音声を別パソコンから手動で同期して出さないといけなかった。これがなければ私は今回特に仕事がなかったのではないか…?

本部裏方を10年やっての感想

本部裏方という役目があまりにもunderratedである、それゆえに本部裏方のかゆいところに意思決定者が誰も触っていないあるいは触り方が浅い、というのは毎回終わるたびに思っていて、それが端的にあらわれているのは1日目のルール決定にものすごくやる気は出すけれどその運用についてはあまりにも丸投げである、ということに現れているように思います。改善が進んだ内容としては開会式・閉会式の運用方法がアドリブでなくなった、そのために賞状の準備とかが事前に適切に行えるようになった、というのはあります。一方で最後まで改善が行き届かなかった内容としてはキャラクターオブジイヤーの判定で毎回コーナーケースが発生して決定に手間取り最終判断の必要が発生する、ということがありました。これもルールは決まっているとはいえ自明な問題ではありません。

QMAの大会進行における複雑性は、すべて「4人対戦のゲームである」ということに起因して発生しているように思います。他のゲームでは当たり前に導入されているスイス式トーナメントやダブルエリミネーショントーナメントの導入が試みられたこともありましたが、これがそのままQMAに導入できないのはひとえにそれらが4人対戦との相性がよくないということによります。1vs1のゲームではより大規模なトーナメントが運用できてQMAではなぜできないのか?そちらにワンストップソリューションはあるけどこちらにないのはなぜか?というのは、1vs1のゲームではChallongeやSmash.ggなど複数ゲームをまたがるシステム化の成果としてワンストップソリューションが導入されているけれど、4人対戦が主たるルールとして導入されているゲームが他になく、それゆえにQMAのコミュニティの中でしか技術革新の余地がない、ということが原因なのではないかと考えます(もちろん私の能力不足である、という部分も否定はできませんが、それを咎められる人は果たしているのでしょうか?)。

おわりに - 「失われた時を求めて

「お前、こんなことやってる場合だと思ってるの?」

一つの区切りに際し、この営みによって得たものを美化することもできるとは思いますが、これによって失ったものについても思いを馳せざるを得ないのが人間の性というものです。ゲームとそのコミュニティに入れ込みすぎることによって他のコミュニティや活動に多くの犠牲を出し信頼を失ってきたことは否定できません。この記事の内容は多くの人の目に触れていただきたい内容であると思って書いていますが、それでも私がこれをFacebookのタイムラインに流すことにはこの営みによって失ってきた信頼のことを思うと一定の抵抗があります。

賢竜杯Xのムービーにて最も最初から決まっていたフレーズである誰がために鐘は鳴る?愚者か?賢者か?」と問うたのには、自分への問いもあったのではないか。

それでも、私のような愚か者をコミュニティから追い出すことなく受け入れてくれたQMAコミュニティと、DRAGON Projectのメンバーの皆様には感謝してもしきれません。この10年で私は多くのものを失ったかもしれませんが、このゲームを通して皆様に会えたことは私の人生にとって非常に大きな意味を持っていると思っています。はっきりいって、私はこのゲームを通して「社会に生きる人」としての「社会人」になれた。

あり得た世界線を悔やむことよりも、次の10年に向けて、この10年で得たものを土台に進んでいければと思っています。

*1:ここでは定義としてはドラゴン組をある程度維持でき店舗大会にある程度出場することを指す。店舗大会や全国大会で一定以上の実績を残す、であれば一度も「第一線」であったことはない

*2:かなりスタンダードな正誤表。凡例欄が初めて使う人にもわかりやすい

*3:正解率・形式欄に加え、「サブジャンル番号の記載欄」がある

*4:sylph01がT-TRIP式をベースにQMA7/8対応版として作ったもの。左に穴を開けてバインダーに綴じられるようにする加工が一番の特徴か

*5:関西方面の集計人の方が書いていた

*6:PT名古屋2005の「見ていた全ての人が、この伝承の語り部」、GP京都2007の「渡辺雄也よ、叩きつけた《悪魔火》で、君の名を時代に告げろ!」などが有名

*7:ドラゴンスレイヤーポイント