幻想郷初心者のための幻想入り入門、あるいは幻宴Projectの宣伝

TL;DR

12/15(日)に開催される 幻宴Project2019 ~ 幻想郷を彩る神々と仏の世界 に出演します。
コントラファゴットで乗っています。
みんな来てね。

本記事は東方Projectを知らない方が幻宴Projectの演奏会を楽しめるよう楽曲の背景を解説した文章です。

東方Projectについて

東方Projectは、主に幻想郷と呼ばれる一地方でストーリーが展開される。この幻想郷の中で「異変」と呼ばれる怪事件や怪現象が発生し、主人公である博麗霊夢霧雨魔理沙などの登場人物が「異変」を解決する。
Wikipedia: 東方Project の世界観・設定の項より

東方Projectの舞台となる幻想郷は日本の辺境に存在するとされる架空の世界で、日本の神話・伝承・民話に素材を取ったキャラクターが登場します。必然的にその音楽も日本の伝統音楽の文法に影響を受けたものとなっています。詳しくは本演奏会主催サークルである針の音楽が出している 東方Projectの楽曲と音楽理論の考察 という同人誌が詳しいのですが、だいたいこのへんを知っておくとよいでしょうという内容を書きます。

「東方の主題」

各作品のタイトル画面で流れる楽曲には共通したモチーフが用いられており、それを便宜的に「東方の主題」と呼ぶことがあります。A minorで「A-D-E-G-E-D」(ラ-レ-ミ-ソ-ミ-レ)、あるいはこれに「B-C-B-G」(シ-ド-シ-ソ)*1が付いたものがこれになります。以下の「永夜抄 〜 Eastern Night.」ではこれがD minorの調性で使われています。この音形は一部の他の楽曲で変形されて用いられることもあります(例: 東方永夜抄の「千年幻想郷 〜 History of the Moon」など)。

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この主題が「日本民謡っぽく聞こえる」とすればそれは 六抜き短音階 (リンクは「ヨナ抜き音階」のWikipedia)を用いているからで、確かにこの「東方の主題」は「ニロ抜き短音階」(陽音階)に当てはまることがわかります。

原曲の9割9分は短調である

ごくまれな例外があるのですが、どの曲だったか覚えていないくらいには東方の曲の大多数は短調が支配的です。それはそうで、シューティングゲームのBGMなので、道中もボス戦も基本的には生死をかけて弾幕をくぐり抜けているのだから緊張感のある音楽である必要があります。こういう特徴を持つ東方Projectの楽曲が編曲の都合上長調に編曲されることがあるのですが、その場合はあえて原則を破って例外的に長調にしているといったことが多く、特別な意味を持っているといってよいでしょう。例としては「針の音楽団」の演奏会で演奏された「聖徳王伝説〜道士の為政者、聡らるる道」の最後がわかりやすいです。

1. 二つの楽園 〜 月と現し世の夢

東方永夜抄と東方紺珠伝という「月」をテーマにした2作品からのアレンジです。8分程度の楽曲に両作品の主要な楽曲の大多数が詰められている、ものすごく「情報量の多い」アレンジとなっています。正直情報量が多すぎてどれを事前に予習すればいいといえばいいかわからない*2。アレンジャーが言うところには「西の新快速」のイメージだそうですが、確かに短時間でテンポよく複数の楽曲を織り交ぜていく様は関西の主要都市を高速に駆け抜けていく新快速列車さながらの雰囲気です。

2. 小人と付喪神の進軍

今回の演奏会最大の変わり種。なんと吹奏楽+箏・琵琶・和太鼓という編成の曲です。東方輝針城*3には九十九八橋・九十九弁々・堀川雷鼓という箏・琵琶・和太鼓の付喪神が登場し、それらのキャラクターのテーマ曲をアレンジしたものになっています。なので当然?それらの楽器のソロを持つ小協奏曲風のアレンジです。

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3. 神さまの足跡 ~ 新天地への御神渡り

東方風神録より、「針の音楽団」のメイン曲と比較的近い構成のメドレー形式のアレンジ。つまり、ストーリーの提示がなされる前半部分が大胆にアレンジされており、後半は原曲の形式をほぼ踏襲したアレンジになっています。というわけで、だいたい主要な登場人物のテーマ曲である以下の3曲を聞いておくとわかりやすいかと思います。

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4. 孤独に哀しみを、探しものに喜びを。

今回の楽曲で一番最後に楽譜が出てきた曲だけど全曲中一番拍子とかテンポの変化が多彩な曲。希望を失い暴走していくさまが5/4拍子で緊迫感を持って描写されたと思えば、新たな生き方を取り戻し「心綺楼囃子」につながる部分も5/4で向かっていきます。東方心綺楼は第13.5弾*4なので、東方萃夢想東方緋想天などのタイトル曲と共通の主題(以下原曲1:08くらいから)が使われています。

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5. 後戸を操りし幻想郷の賢者

(上記のクロスフェードの1:16くらいから)

東方天空璋は東方シリーズで初めて(のハズ)通常ステージの最終ボスとExtraステージのボスが同一人物であるという作品で、幻想郷の創造に関わったとされる摩多羅隠岐奈がいかに強力なキャラクターかがこのことからもわかると思います。というわけで隠岐奈は1作品中で2つのテーマ曲を持っておりこれらを中心にしたアレンジとなっています。

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ところで、「秘匿されたフォーシーズンズ」に「ネクロファンタジア」*5が自然に混ざって聞こえるのは気の所為だろうか…?

6. 飛鳥の夜明け、伝説のはじまり、7. 丁未の乱

東方神霊廟からの2曲はまとめて紹介しましょう。東方神霊廟の6面ボスは豊聡耳神子という聖徳太子をモチーフにしたキャラクターで、5面に登場する蘇我屠自古物部布都は苗字からもわかるように飛鳥時代に活躍した蘇我氏物部氏から取られたキャラクターです。

「飛鳥の夜明け、伝説のはじまり」は「聖徳伝説 〜 True Administrator」を中心に蘇我屠自古物部布都と大陸の仙人の霍青娥を順に紹介し、聖徳太子の伝説が日本中に広まり大和国家が隆盛していくさまが描かれます。

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丁未の乱は実際に日本の歴史上に起きた出来事で、崇仏・廃仏を巡って蘇我氏物部氏が争った内乱で、その結果廃仏派の物部守屋は敗北し、日本は仏教国へと向かっていきます。「丁未の乱」では蘇我屠自古物部布都のテーマ曲がぶつかり合うことでこの出来事を描写しています。

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8. 命蓮寺縁起音詩 ~ 尼公の抱いた望み

今回のメイン曲。なんと大和の巻、幻想郷の巻の両楽章をあわせると30分を超える大曲となっています。

東方星蓮船の6面ボスの聖白蓮信貴山縁起絵巻の「尼公の巻」に出てくる尼公が元ネタとなっており、白蓮が法力を学んだ伝説の僧侶の命蓮とはこの信貴山縁起絵巻に登場する命蓮のことを指しています。白蓮は人間から妖怪退治を頼まれて行っていたが妖怪たちも弱者であることに気づいてしまい妖怪たちを救い、そのことから人間たちによって魔界に封印され、妖怪たちも地獄に落とされることとなります。ここまでが前半楽章の「大和の巻」で描写されているストーリーで、異変に至るまでの白蓮の苦しみ・悲しみを表現する楽章であることから、今までの白鷺ゆっきー楽曲にはほとんど見られなかったかなり遅いテンポで演奏し続けるアレンジとなっています。

「幻想郷の巻」では東方星蓮船の異変本体の描写に移ります。東方地霊殿の異変を受けて地獄から地上に脱出した妖怪たちは、白蓮を魔界から救出することを試み、主人公たちと対峙することになります。楽譜上にも記述のある「今度は、私達が恩返しをする番だ!」という言葉のごとく、妖怪たちの乗る聖輦船*6が勢いよく地獄を脱出していくさまが爽快感を持って描写されます。そして主人公たちは白蓮とも対峙し、白蓮は人間と妖怪の争いが千年の時を経て未だに絶えないことを知ります。

楽曲構成の中心になっているのは必然的に聖白蓮のテーマ曲である「感情の摩天楼 〜 Cosmic Mind」で、

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  • 冒頭の「ソーーーラ ファ#ーーー」という音形
  • 0:13からの「ドドドドドシbーー」という音形
  • 1:42からの「ソーレーシーー ファ#ソレーー ファ#ソレーーミミーー」という音形

が楽曲を構成する核となっています。正直この部分だけ抑えておけばだいたいわかるし幻想郷の巻の前半はほぼ原曲は原型とどめてない。


というわけで「東方知らんけど今回の曲ってどんなんなん?」という方向けに記述を試みました。実は私も東方地霊殿までしかちゃんと原作をやっていないので東方星蓮船以降、つまり今回演奏される曲の大多数はゲーム中で知ったわけではない、という…。

ゲーム音楽吹奏楽アレンジ」といって想像される「吹奏楽のポップスステージみたいなもんでしょ」という内容からはだいぶかけ離れた、ドラマティックなアレンジばかりのステージとなっています。前回の「針の音楽団」の演奏会では1000人超の来客を集めた吹奏楽の「異変」が、再び川口のリリアにやってきます。この機会を、ぜひ見逃さないでいただきたい。

*1:ドイツ音名だとH-C-H-G。筆者はだいたいの場合文字で表記する場合はアメリカ音名を用いる派です

*2:書いている本人も東方紺珠伝は未プレイ

*3:なお「針」の音楽とついているサークルだが東方輝針城は関係がない

*4:x.5弾となっているのは東方Project本体とは違って格闘ゲーム風の作品で、東方のメインのナンバリング作品を作っている上海アリス幻樂団に加えて黄昏フロンティアという別のサークルも制作に関わっている

*5:東方妖々夢Phantasmボスの八雲紫のテーマ曲。なお、Extraステージのさらに後ろにもう1つExtraステージがあるのは妖々夢のみ

*6:せいれんせん、と読み、作品本体の「星蓮船」と読みが共通しています