タイトルの通りです。
参加したカンファレンスでまだ記事にしてないのは関西08とPicoRuby Overflowがあるんですがちょっと余裕がない。これも速報ダイジェスト版みたいな感じで多分書き足りないことがかなり出てくると思いますが、もしかしたらそうなった内容は「実は書くべきではなかった」内容であるかもしれないのでまあご愛嬌ということで。
めちゃくちゃいいイベントでした。 @luccafort さん開いていただきありがとうございました!
発表に至るまで
東日本の本家のほうの反応を見てて面白そうだなーとは思ってたので西日本版の開催が発表されたときになんかしら参加する理由付けがほしかった。
You're a f*cking nobody
とはいえ、基本的にこの手の人生論は生存バイアスにまみれていたり説教じみた内容になりがちで、「めちゃくちゃに成功していてうらやましい、どうやったらそれを実現できるのか」というのをみんなが知りたがる人でもない限り他人の時間を取ってまで聞いてもらう価値があるのか?という思いがありました。誰もモブのキャリア論・人生論なんて聞きたくないんですよ。
Somebody Screams
とはいえ心の中で"You're a f*cking nobody"と自制するならさておき、そろそろ対外的にもf*cking nobodyを自称し続けるのもかえって害があるような気もしてきたんですね。なのであえて発表するならばわかりやすい価値を提供しないといけない、ということで、多分あまり多くないであろう*1地方在住フリーランスの現実、を情報量のコアとすることで発表する方向で行くことにしました。フリーランスとしてほぼ5年生存できてるんだから「生きのこっている」といってまあまあ問題ないでしょ。
これは高校の進路講演会での発表を頼まれたときも同様のことを考えて、Googleや任天堂など「皆がうらやむ」企業に勤めている卒業生がいる中でどこの馬の骨かもわからないようなフリーランスのプログラマが話をするからにはフリーランス固有の事情というのを話すのが最も価値がある、と考えて、半分くらい「公民の授業」と称して確定申告とか税金とか契約の話をしました*2。今回のスライドの前半数枚にそのへんの名残があります。
「敗けたって次はある」
(リンクは「いきづらい部!『What is my LIFE?』のMV。イ!はいいぞ)
そのうえで京都は学生の街でもあるということで学生向けの内容もあるといい、とCfPのガイドラインにあったことから、もうひとつのテーマとして「キャリアにおける撤退戦」の話を含めることにしました。具体的な話は現地限定として*3、大学院をドロップアウトしたのも会社員をやめたのも必ずしも積極的な理由ではないからですね。そういう背景からもコンセプトがめちゃくちゃ刺さったイキヅライブ!のキャッチコピーをもうひとつのテーマとしています。
スライドが公開できないのは割とこのへんの「敗け方」の事情が公表できる性質のものではないからです。あとライヴ感重点。
改めて地方に移住して思うことについて
過去の記事、特に
- 東京を出て松山に引っ越した (2021/10/16)
- 【地方在住/Rubyist近況AC】松山に引っ越してから2ヶ月が経過した (2021/12/13)
- RubyKaigi 2025 記録 Side D: 感情処理パート (2025/05/23)
とかにいろいろ書いてますが、しゃべった内容と合わせて改めて思うことを書きます。
私は地方移住を撤退と考えていない
地方は東京モンの慰みのために存在しているのではない、という表現を使ったのですが、別の表現でいうならば、地方は東京の植民地ではない、とも言えます。生活コストのために地方に「撤退」したわけではない(事実生活コストはいうほど下がらない)し、はっきり言って営業機会の面から生活費の対投資効果はかなり落ちるので無理してでもギリギリまで東京にいたほうが生存の可能性は上がるわけです。最初のモチベーションは「面白そうだったから」というのはあるにせよ、長くいるとコミュニティに対してなにかを返さないといけない、という思いが出てきます。あと長く住んでいると地方と都会の格差について思いを馳せることも増えてきて、都会の人間(「東京モン」と称しているが別に東京に限ったことではない)の無意識の特権意識が鼻につくようになってきます。もっとも私も「移動の自由がかなりある」立場*4なので地元の人からは東京モン性を見出されてるかもしれませんが…。
実際こういう思いがあるので「典型的な地方移住はいいぞ」トークはしませんでした。ほらそんなのインフルエンサーが書いてるからみんな知ってるじゃん。
IT(ひいてはデスクワーク)は虚業、第一次産業・第二次産業こそが真の「仕事」である、ということについて
これはRubyKaigi 2025の感情処理パートや「RubyKaigiローカルオーガナイザー完全攻略ガイド」でも使った表現で、多少どころかかなり盛っているところはあるにせよ、田舎*5のコミュニティの現実を知っていると、「物理的に」助け合わないと生活が成立しない、貨幣経済のみですべてが成立するわけではないコミュニティでは「パソコンカタカタ」は仕事しているうちに入らない、というのも現実として理解できます。じゃあそのうえでITエンジニアの価値とは?ということに思いを馳せるわけです。結局我々ITエンジニアはその「十分な価値」を生み出していなければ、存在しているだけでリソースを費消しているに過ぎないわけです。地方であれば物理的リソースはさらに限られるのでなおリソース費消感に対して強い警戒を持たれるでしょう。ITは「業務を効率化する」とはいうけれど、一方でITによって新たな複雑性を生み出していないか?ITのためのITをすることで、IT以外の人の仕事を複雑にしてしまっていないか?このへんを真に解決できない限り、我々は物理的リソースを費消するだけのブルシット・ジョブをしているとみなされても仕方ないし、物理的リソースが限られているならばなおその目線は強くなることでしょう。なお制度の複雑性の問題については過去にThe Utopia of Rules, インボイス制度、そしてLawful Evilについて という記事で思いの丈を書いています。
そうやって考えると、地域貢献とか制度の複雑性との戦いとかをやろうとすると政治レイヤーをやらなければいけなくなるわけですが、私は政治家になれるほど清廉な経歴を持っておらず、少なくとも現在は私の戦う土俵はここではないだろうと思うので、このへんに気持ちがあって政治家になる道を選んでくれる人は尊い、という気持ちになりますね。あと第一次産業・第二次産業の従事者は尊い。
自由と責任、「大人のカードを切る」ことについて
エンジニアという職業の好きなことについて、またあなたは今生きのこれていますか、ということについて、私は以下のように回答した:
自由と責任 #kinokokansai
— sylph01 / G4きゅーぶ (@s01) 2025年7月26日
社会に責任を果たしてるとみなされてる限りは「生きのこれてる」のではないかなあ #kinokokansai
— sylph01 / G4きゅーぶ (@s01) 2025年7月26日
このへんは同様にRubyKaigi 2025の感情処理パートにも書いているが、地方で雇用を生んでいる人を見て強く思っていることである。フリーランスは自己責任とは言うけれど所詮「自己」責任で、仕事上の責任があるとはいえ会社員ですら仕事上の責任はあるので多少それが明確な形になるだけ、「他人の」人生の一部や大部分を背負ってはいない。「自分が」生きのこるだけのフェーズはもう本来終わっているはずなので、それを誇っても意味はない。
一方でITエンジニアという職業は他の職業に比べてかなり「自由の効く」職業と文化であることは事実なので、その与えられた自由に対してちゃんと責任を負っていかないとね、という思いもある。過去の記事でいうと技術書典6で"DNSDNS Resolution"を頒布した。記録と、執筆の経緯、移籍の経緯について (2019/04/16)あたりに自由と責任についての思いが書いてある。Cosenseで「giveの話は恩送り」っていうコメントがあったけれど実際それは影響あるかもしれない*6。正直お気楽な身分なんだから、「大人の責任」*7を背負っていくには、「余力を作って、身近な他人を助けていく」しかないんですよ。
ちなみに「他人の人生の責任を背負う」ことについて、触れたかもしれないが書かなかったことがある。これは「不言実行」を旨とするThe Jeskai Wayの流儀に反するので現時点では書きません。
他の発表
だいぶ長くなってしまったのでかいつまんで印象に残ったことだけ…
手を動かした者だけがry、だ #kinokokansai
— sylph01 / G4きゅーぶ (@s01) 2025年7月26日
やっぱり id:onishi のいう「手を動かした者だけが世界を変える」なんですよ、というのを、 @akitoshiga さんの発表でも思ったし、このフレーズを多数引用している @soudai1025 さんが @luccafort さんにキャリアの相談をできないかと聞かれたときに返した表現(具体的になにか行動してなかったら相談しても意味ないよ?というやつ)を見ても思った。「第一次産業・第二次産業こそが真の『仕事』である」も「手を動かした者だけが世界を変える」で説明ができる。
マネジメント関連の発表については以下の感想を持った:
マネジメントは階級という世界観の組織にいると、組織に適合できてないと「技術かマネジメントかどっちにすんの」っていう選択肢すら与えられないんですよね…>< #kinokokansai
— sylph01 / G4きゅーぶ (@s01) 2025年7月26日
一方でマネジメントポジションは高い階級の現れや階級の対価ではなくそういうスペシャリティであるという思いはあるので、マネジメントのスペシャリストを意識してやってる人は尊いし、組織としてマネジメントを学んできた人間をマネジメントポジションにつけろとはずっと言ってる #kinokokansai https://t.co/rZgInFb9kr
— sylph01 / G4きゅーぶ (@s01) 2025年7月26日
マネジメントはエンジニアすごろくにおける「上がり」ではなく、別の動作原理で動いている世界であり(いうならばこれ自体が「越境」ですね)、固有の専門性や学問体型を持っている世界である、なのでマネージャーというのは階級や地位の現れではなく、組織はそのようにマネージャーを扱ってはならない、と考えているところがある。現実にそのように運用されていない部分が多いが、これは世の中がそのように認識を改めてほしい、と考える次第である。
わからないを言語化してくれ、とてもわかる、何がどうわからないかを教えてくれればわかる側はその差分を埋める努力ができるようになるんですよね #kinokokansai
— sylph01 / G4きゅーぶ (@s01) 2025年7月26日
ジュニアメンバーの教育っていう面でもそうだけど「私は技術わからないんで」っていう営業やマネージャーもこの観点を持ってほしいと思っている。わからないものを売っているんですか?わからないものを作ってるんですか?完全に理解できたらエンジニアの職業あがったりなのはそうだけど、営業やマネジメントの判断をするのに必要なプロダクトの動作の解像度っていうのはあると思っていて、「全くわかりません」で丸投げしていいものではないし(それならITの営業やマネジメントをやる必要はない、もっと儲かるセクターをやればよい)、こちらは「何がどのようにわからない」ということを教えてくれて差分を埋める姿勢を見せてくれればその差分を埋めるために何をすればいいかを考える努力ができるわけです。
運営やると話しかけてもらえて嬉しい、RubyKaigiでめっちゃ思った #kinokokansai
— sylph01 / G4きゅーぶ (@s01) 2025年7月26日
これはマジ。
登壇が癖になると調子乗ってCfPを出しすぎて2ヶ月で4回出番が生えて準備で破滅することになります #kinokokansai
— sylph01 / G4きゅーぶ (@s01) 2025年7月26日
これもマジ。(進行形で苦戦してる)
メモを取る、これなんですよね〜〜〜〜〜 #kinokokansai
— sylph01 / G4きゅーぶ (@s01) 2025年7月26日
そういえば最近紙のメモを取るのできてないな…。
*1:とはいえ実は愛媛県のITエンジニアのコミュニティには結構多い
*2:実際スライドをFacebookで共有したところ弁護士や会計士をやってる同期にこのへんの内容がめちゃくちゃウケた。実際義務教育で公民の授業はあるとはいえ、中学3年生のタイミングでやって高校受験への配点が低いってなると優先度落ちてみんな覚えてないのはわかって、どうにかならんかなあとは思う
*3:酒を飲ませれば吐きます
*5:松山はこのカテゴリに入りません。母方の実家は路線バスが最近なくなった程度の田舎なので松山なんて大都市はイージーモードです
*6:いやー今から考えたら冒頭がくせえ文章だ
*7:ブルーアーカイブにおける概念。私は未プレイだけど最終章は動画でもいいので見ろと言われて見た。なお確かにブルアカ概念だと気づいたのはutgwkkさんのtweetの影響