この記事はDigital Identity技術勉強会 Advent Calendar 2021の21日目の記事です。今年は小ネタです。
TL;DR
- 巷に流布している「ジョットは日本語訛り」という言説はギリギリわからないでもないが
- 「正しい発音はジョゥト」は明確に誤り
解説
「ジョット」について
JSON Web Token(JWT)のRFC、RFC 7519には
The suggested pronunciation of JWT is the same as the English word "jot".
という記述があります。
によれば
になります。
ところで、日本語で「ショット」と記述されるshot(銃声を意味する名詞)は
- イギリス英語での発音は /ʃɒt/
- アメリカ英語での発音は /ʃɑt/
という発音記号で、"jot"とほぼ同じように発音されます。/dʒ/ に「ジ」を当てるのも一般的なので、「ジョット」というカタカナ表記はかなり適切であると言えるでしょう。
強いて「日本語訛りである」と強弁するならば、「ト」を母音の伴う1音節で発音するのは日本語訛りと言われたらわからないでもありません。もっともそれを言い出したら英語における /t/ で終わる単語すべて「ト」で表記するのが日本語訛りって言って回らないといけなくなりますが…。そして2音節で「ジョッ↓ト↑」のようなイントネーションで発音したらまあそれは明らかな日本語訛りと言っちゃってもいいでしょう(英語では1音節なので)。ただカタカナ表記にケチをつける程度の誤りであるとは言えないでしょう。
「ジョゥト」が誤りであることについて
音声サンプルを聞けば /ɯ/ (非円唇後舌狭母音*1)あるいは /u/ (円唇後舌狭母音)に相当する音がないことは明らかです。
(これらに加えて、Wiktionaryの "jot" (UK) と "shot" (US) も参照)
イギリス発音では「ゥ」みたいな音するのかなーと思ってましたがそうではないようなので主流の英語の範囲ではそういう音はありません。
また、「促音(ッ)の強調が問題であり長音であるほうが正しい」として「ゥ」を含んでそれを発音しているならばそれも誤りで、jotの発音記号には長音を示す /:/ が含まれていません。
Q: なぜあえてこのような記述をするか
- 私が言語学趣味者だから。
- 日本人の英語コンプレックスや西洋コンプレックスにつけこんで自説を流布することには害が多いと考えるため。
- 国際会議に出てる偉い人が言っているからなお厄介であると考える。周囲は容易に忖度してしまう。
- 技術者はソースに基づいて主張する習慣をつけるべきであるため。本件はRFCに答えが書いてある。
Q: Normative definitionじゃないので実害は少ないのでは?/お前の主張のほうが誤りでは?
A: RFCの記述が誤ってるならerrataしましょう。errataを出した結果「どうでもいいよ」と言われたならそれは(英語発音の当事者である)欧米人にとってどうでもいい問題です。
ついでに
そもそもいくつか動画を見た限りみんな「ジェイダブユティー」と発音していて略称を使っていない。SQLを「エスキューエォ」と言わずに「スィークォー」と呼ぶのが一般的であるのと対照的ですね。
lessons learned
最後に
ジョゥトは京言葉(ジョウトちほうなので)- こんな感じにネタにしてしまって崎村さんごめんなさい
- 「『ジョットは日本語訛り』と主張しているのでその人の言うことはすべてデタラメ」みたいなことを言うつもりは全くありません。そのくらいのことはわきまえられる程度には人間できてる